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広告代理店の使う「プレゼン」という言葉は表現の誤りである

「プレゼン」という言葉はよく使われるが、世の中には異なる2種類の「プレゼン」が存在している。一つは、広告代理店を始めとする人々がよく使う「プレゼン」、もう一つはコミュニケーション技術としての「プレゼン」である。

前者の「プレゼン」は、私は本質的には表現の誤りだと考えている。広告代理店のプレゼンに何度か立ち会ったことがあるが、とてもプレゼンテーションスキルの高い話し手ばかりというわけではなく、どちらかというと少ないくらいである。彼らの言う「プレゼン」とは、提案する「コンテンツ」そのものを指している。それは企画商品であったり、販売促進手法であったり、プレゼンに使う視覚資料のことを総称して「プレゼン」と呼んでいる。

例えば「最強のプレゼン」などと題した啓蒙書籍やwebページが数多く存在するが、それらの大半は伝達技術としての「プレゼン」の解説ではなく、プレゼンする「内容」の構成手法やデザイン、使用機器に関する話題が大半である。しかし残念ながら「提案し、相手を動かす」という目的を達成するために必要なのは、職人のように「内容」を作りこみ外観を美しく見せることではなく、いかにして相手に効果的に情報を伝達し動かすかという、コミュニケーションとしての「プレゼン技術」を磨くことなのである。

しかしまだ日本においては、純粋な伝達技術としての「プレゼン」に正当な評価はなされていないのが現実だ。例えば、本質的な意味での「プレゼンセミナー」の受講料に、何時間までなら参加し、いくらまでなら支払うだろうか。恐らく、多くの方は2~3時間の講座に対して高くても5千円~1万円前後という答えが多いのではないだろうか。実際には、知識だけでなく体現レベルまでの習得を目指した2日間のコースで10万円程度が相場である。逆にこの程度の学習時間は必要であり、経験してみると10万円が決して高いとは感じないほどに、プレゼンスキルの重要性に気づかされるのである。

より多くの人が正しい「プレゼン」の意味を知り、その技術の重要性を理解し、習得できる機会が増えることを私は望んでいる。なぜならそれは世の中の様々な局面において、より精度が高く交流の深まる温かなコミュニケーションが実現し、私たちの生活に精神的な豊かさを与えてくれる源泉となるからである。シンプルに言うと、自分が相手に伝えたいなあと思うメッセージが伝わることは嬉しいし、伝わらないことはストレスフルなのだ。それを解決する一つのアイテムが「プレゼン技術」であると考えている。

これからも世の中で「プレゼン」が混同したまま存在することを心から危惧しているし、願わくば広告代理店をはじめとする皆さんには誤った「プレゼン」という言葉の使用を控えて欲しいとすら思っている。しかし私にできることは恨み節ではなく、自分の周囲から少しづつ影響の輪を広げることのみである。今年から「自己紹介」をテーマにしたプレゼンのワークショップを何度か開催してきた。その中で、ここに記したような意味を含め、本質的に使える技術としての「プレゼン」の理解を広めてきており、少しづつではあるが手ごたえを感じている。東京オリンピック招致の際のIOCにおける日本チームのプレゼンが高く評価されたことも、人々に良い刺激を与えてくれた。聞くところによると「プレゼン技術専門」のイギリス人のコーチを招き、徹底的にトレーニングを重ねたそうだ。内容がどうでも良いということではなく、良い内容を相手に伝えるためには、伝達技術としての「プレゼン」を磨くことが、これまで私たちが認識してきた以上に重要になっているということなのだ。

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